研究代表者は、オーステンパー球状黒鉛鋳鉄を一層強靱化するため、破壊起点である黒鉛周囲と共晶セル境界に、オーステナイト生成元素を偏析させて、オーステナイト化温度を局部的に低下させ、(α+γ)域で保持することで、この部分の合金元素の濃化・分配を図り、熱や加工に対して安定な残留オーステナイトを優先的に導入した材料を開発した。この強靱ADIでは、安定な残留オーステナイトの存在により、低温において加工誘起変態による変態誘起塑性(TRIP)現象を示すことが明らかになった。このTRIPは、従来の加工誘起マルテンサイト変態に起因するものではなく、変形双晶によるものであることを明らかにした。試験温度に対する引張特性の変化を調査すると、198Kをピークに異常伸びを示し、引張強さ、0.2%耐力も、伸びが増加する付近から増加し始めている事が明らかとなった。各熱処理材のうちで、低温において著しい伸びを示した試料では、粗大な塊状の残留オーステナイトが観察された。これをEPMAによりミクロ分析した結果、MnおよびNiがかなり濃化している事が明らかとなった。また、C量の濃化も観察された。さらに、このような異常伸びの発現に及ぼす負荷速度の影響についても、広い負荷速度範囲で衝撃引張り試験により評価した。 さらにADIで生成する変態組織が靭性に及ぼす影響について検討を行った結果、オーステンパー保持時間の経過にともなう靭性の劣化は、二次黒鉛とχ-炭化物の析出によるものであることを明らかにした。
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