本研究の目的は、厚膜作製方法の一つである電気泳動法を用いて傾斜化プロセスの一手法を確立することである。電気泳動の駆動力は固一液界面に生じるゼータ電位であり、そのゼータ電位は粒子の種類や懸濁液のpHにより大きく変化する。そこで本研究では、懸濁液のpHを制御することにより、導入した粒子の組成比が一定の混合懸濁液を用い、電気泳動電着により、組成を傾斜化した膜の作製を試みた。 懸濁液のpHを制御する方法で、NH_4OH水溶液を滴下する方法では、液の滴下により、懸濁液の濃度が局部的に上昇し、また、pH=6〜7付近では、滴下する水溶液の量が非常に微量となるため、再現性の乏しい方法であった。そこで、気相によりpHを制御する方法を考え、作製した装置でpHの経時変化を調べる実験を行った。懸濁液を攪拌しながらではあるが、pHは3〜10付近まで連続的に変化することが確認された。この方法でpHを制御し、YSZとα-Fe_2O_3のそれぞれの単一の成分の懸濁液および両者を混合した懸濁液を用いて、電気泳動電着を行ったところ、pH=3〜6付近で、良好な電着膜が得られた。ただし、攪拌を行いながら電着を行うと、静置した状態では凝集して沈降する粒子が攪拌されて電着に関与するので、電着中はガスの流入と攪拌を止めた。また、YSZ:α-FeO3=50:50の懸濁液を用いて、懸濁液のpHを3.0〜6.0で変化させて電着を行った。作製された膜は均質であり、その破断面をSEM-EDXにより観察したところ、組成の傾斜化が確認され、この方法が傾斜化プロセスになる得ることが示された。
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