一般に傾斜材料を作製するには、組成や性質の異なるものを順に数種類積層させて行なう場合が多い。しかし、網目鎖密度を変えたゴム系傾斜材料を作製するには多数のコンパウンドの積層化ではなく、硫黄および加硫促進剤含量の異なる2種類のコンパウンドを積層するというシンプルな方法の方が傾斜の程度を大きくできることが判った。つまり、150℃ではゴムは室温よりも粘性の低い液体状態となっており、その結果、配合したゴム試薬が拡散によってプレス加工の初期に濃度分布を生じ、網目鎖密度の傾斜化が達成できた。また、積層する2種類を適当に選べば任意の傾斜化ゴム材料を作製できることも明らかとなった。さらに、本方法では一方向だけの傾斜化だけでなく、サンドイッチ型に傾斜をつけた架橋体も容易に作製できた。傾斜化ゴム架橋体のモジュラスは、傾斜の如何にかかわらず全体の網目鎖密度によって決定された。人工血管などの生体軟組織用エラストマーには、一方向に傾斜をつけるよりもサンドイッチ型に傾斜をつけた方がより低モジュラス性、高強度、高伸張を発現し易く、有用であることも判った。傾斜のない架橋体と全体の網目鎖密度がほぼ等しい傾斜ゴム架橋体を比較すると、tanδの温度分散から傾斜化によってtanδのピークが高温側にシフトし、ピークもブロードとなることが判った。しかし、室温での貯蔵弾性率は傾斜の程度の違いによる差はほとんど認められなかった。厚さ2mmのジエン系ゴム架橋体に対しては我々が展開したin situシリカ充てん法ではシリカに傾斜をつけた複合体を作製することは容易ではなかった。
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