研究概要 |
α,α-ジ置換-α-アミノ酸類は、天然から遊離あるいは生理活性含窒素化合物の部分構造としてはしばしば見いだされている。このような4級炭素結合型アミン構造はα位の二つの置換基によりアミノ酸部位の回転が強く束縛されていることが特徴的であり、生理活性やその発現の分子構造研究から興味を集めている。本研究では、分子内に4級炭素結合型アミン構造をもつ抗生物質アルテミシジンに対して、独自に開発した不斉転写型ストレッカー合成を鍵階段に適用して合成研究を行ったので報告する。アルテミシジンはStreptomyces Sioyaensis SA-1758から単離され、顕著な抗カビ・抗腫瘍活性を示すことが報告されている。アルテミシジンのモデル研究として、これまでにその5員環部はα-ケトアミノ酸エステルの分子内ストレッカー合成によってエナンチオ収斂的に合成できることを報告している。全合成にあたって、まず必要な炭素骨格が整った出発物質が必要と考えた。そこで、ラセミ体のビシクロ[3.3.0]オクタノン誘導体から出発し、α-ヒドロキシケトンに光学活性アミノ酸を導入し、4種のジアステレオマ-の混合物としてα-ケトアミノ酸エステルを得た。ストレッカー合成条件では8種の異性体の生成が可能である。しかしながら、本反応では環状ケチミン中間体のイミン・エナミン異性化の際に、不斉転写基の反応側からニトリル基の攻撃が優先することが期待され、実際にビシクロ環の付け根に由来する2種のジアステレオマ-のみが立体選択的に生成した。望ましい立体配置をもつ異性体をオゾン酸化でイミン体に酸化したのち、塩酸加水分解によりアルテミシジンの立体化学を満足するビシクロ[3.3.0]オクタノン骨格をもつ光学活性アミノ酸が合成できた。本アミノ酸から光学活性アルテミシジンへの誘導を現在試みている。
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