通常、ブルー銅タンパク質のCysS^-からCu^<2+>への電荷移動吸収帯を励起して得られる共鳴ラマンスペクトルは250cm^<-1>付近にCu-N_<His>結合に由来するラマン線を、330-490cm^<-1>付近にCu-S_<Cys>結合に由来する多重ラマン線を与えることが知られている。Alcaligenes xylosoxidans由来の亜硝酸還元酵素の607nm励起による共鳴ラマンスペクトルを測定したところ411cm^<-1>、365cm^<-1>および258cm^<-1>に強いラマン線を示し、これらのラマン線は411cm^<-1>と365cm^<-1>がCu-S_<Cys>結合に、250cm^<-1>がCu-N_<His>結合に基づくものと考えられる。亜硝酸存在下での共鳴ラマンスペクトルを測定したところ、411cm^<-1>のラマン線が高波数側にシフトすることが認められた。ESRスペクトルによって基質存在下での活性中心の構造変化を検討したところ、亜硝酸還元酵素のESRスペクトルはCu_Bサイトに由来するシグナルが高磁場側へとシフトし超微細結合定数が9.4mTから11.7mTへと2.3mT大きくなることを示した。つまりCu_Bサイトに亜硝酸が結合することによってCu_Bサイトは四面体状の構造から平面性が高くなった構造へと転移するものと考えられる。これらのことは、基質である亜硝酸がCu_Bサイトに結合するとCu_Bサイトの構造が変化し、Cu_A-S(Cys)結合にテンションがかかることを示唆している。つまり、基質の結合あるいはCu_Bサイトの酸化状態によって、電子伝達部位であるCu_Aサイトの構造が変化を受けることにより、分子内の電子伝達が制御されるものと解釈される。
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