研究代表者は呼吸鎖電子伝達系酵素について大腸菌およびミトコンドリアを用い、構造と機能の解析という立場から一貫して研究を続けている。この間、大腸菌呼吸鎖については末端酸化酵素であるシトクロムbo複合体の精製などを通して、その構成成分の実体を明らかにしてきた。本公募研究で対象とするコハク酸脱水素酵素(SDH)複合体は4つのサブユニットにFAD、3種の鉄-イオウクラスターおよびヘムbと計5つの補欠分子族を含む珍しい性質を持った酸化還元酵素である。この中で膜への結合部位と考えられているシトクロムb成分は疎水性の高い、大(cybl)、小(cybs)のサブユニットから構成されている。最近、MCDなどの物理化学的解析から、ヘムbが両サブユニットに存在するヒスチジン残基を介して架橋する、特徴的な結合様式をとっている事が予想される結果が得られた。そこで本研究ではこのヒスチジン残基を同定する目的で、cybLに3つ、cybSに2つ存在するヒスチジン残基を部位特異的変異により他のアミノ酸に置換し、その影響を解析した。その結果cybLのHis-84とcybSのHis-71を他のアミノ酸に置換した時、ヘムbの結合が見られなくなった。つまりコハク酸脱水素酵素のシトクロムbにおいては、ヘムbが2つのサブユニットのヒスチジンと相互作用し、架橋した形で存在している事が明らかになった。ヒトや回虫などミトコンドリアの複合体IIのシトクロムb成分の一次構造を調べたところ、この2つのヒスチジンは保存されており、複合体IIヘムは共通な結合様式をとっていると考えられた。またヘム合成系酵素(δ-アミノレブリン酸合成酵素)欠損株を用いた実験から、活性のある複合体IIの膜へのアセンブリーには、ヘムbが必須であることが判った。
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