本研究は、Ag(100)面の表面拡散電位依存性を測定し、Au(100)面との比較を行ったものである。 Ag(100)単結晶基板はブリッジマン法で作成したAg単結晶ロッドから作成した。電位は3電極方式で制御し、作用極はAg(100)、対極には金ワイヤーを用いた。また参照電極については、実際にはHg/Hg_2SO_4電極(SSE)を用いたが、ここでは標準水素電極(NHE)に対する電位に換算している。 50mM硫酸水溶液中Ag(100)面の表面拡散係数の測定は原子間力顕微鏡を用いて行なった。まず、直径15nm以上のテラス上で電位を-250mV付近のAgの溶解電位より少し卑な電位に保持し、カンチレバ-の触圧を上げ、微小領域(約10nm)を繰り返し走査すると、探針との接触の結果50nmほどの幅をもつ穴が得られる。穴作成直後に所望の電位に設定、保持し、穴の埋まっていく過程をその場観察した。その際、観察像より穴の中心と横の盛り上がり部分の中心の水平距離Lと一原子層が埋まる時間tを読み取り、表面拡散係数D_SをD_S=L^2/2tより算出した。 その結果、Ag(100)についてもAu(100)と同じくE_<PZC>より貴な電位において、電位の増加に伴い拡散係数が増加することがわかった。この関係よりアニオンの吸着に伴う表面過剰電荷による表面拡散の活性化エネルギーの変化について新たなモデルを提案した。また、グラフより100〜350mVの範囲でAgはAuに比べて拡散係数が2桁ほと大きいこともわかったが、この事は、以前の研究における、Au(100)基板上の硫酸溶液中Agの電析において5原子層/分の析出速度においてもAg原子が基板の凸凹を埋めながら原子レベルで平坦な表面を形成すると言う結果とよい一致を示す。
|