研究概要 |
ステンレス鋼のどのFe-Cr合金を硫酸中で方形波電位変調電解することにより制御可能な微細構造を有する酸化物皮膜を形成することができる。本研究ではSUS304ステンレス鋼を50度の10規定硫酸中でクロムの活性態と不働態電位、あるいは過不働態と不働態電位とを交互に分極することにより、ステンレス鋼に通常生成する不働態皮膜よりもはるかに厚い、干渉色を示す数μmにも達する酸化物皮膜を形成できた。透過電子顕微鏡などを用いた解析により、この皮膜は数nm程度の粒子状組織の集積で、水分子・イオンをを容易に透過するポーラス構造を持つことが分かった。また、上述のふたつの電位の組み合わせにより、アノード型とカソード型の異なる機構に基づき皮膜が形成することが確認された。アノード型では活性態電位で溶解したFe^<2+>,Cr^<2+>が不働態電位で主にCrが3価に酸化され、少量のFe^<2+>とともに粒子状の酸化物/水酸化物が形成されるがFe^<2+>の大部分は溶解する。次に均一な皮膜を形成する前に電位は再び活性態に戻されるので、下地金属から再び溶解が起こり、さらに、不働態電位にて粒子状酸化物が生成する。これらの過程を繰り返すことにより、ポーラス構造の皮膜が成長する。一方、カソード型では過不働態電位にてCr^<6+>がFeとともに過不動態溶解し、次に不働態電位にてCr^<6+>がCr^<3+>に還元されることによって粒子状酸化物を沈殿堆積する。これらを繰り返すことにより緻密な保護皮膜とはならずポーラス構造の皮膜を成長させることができる。いずれの場合で生成する皮膜はクロムを過剰に含むCr_2FeO_4型のスピネル酸化物である。ここで、過剰のCrは不定形の水酸化物ないしは酸化物と思われる。 この皮膜の成長速度は、電位および変調パルス幅を変化させることにより制御可能であるとともに、粒子状組織の形状も制御可能であることが明らかとなった。
|