研究概要 |
当研究グループの数十年にわたる電子スピン間の交換相互作用に基づいた理論的成果を踏まえて、まず、プルシアンブルー系遷移金属化合物における遷移金属原子間の有効交換積分の符号(磁性状態)を、d軌道間の相互作用に対する対称性から予測する規則を作り上げた。さらに、triple-zeta(TZ)型の基底関数を用いて、ab initio UHF法およびB2LYP型の密度汎関数法からプルシアンブルー系遷移金属化合物の有効交換積分の計算を実施した。計算対象としては、プルシアンブルー系遷移金属化合物のモデルである(NC)_5M-CN-M'(NC)_5の2遷移金属系を採り上げた遷移金属の組み合わせ(M,M')は、(Cr(III),Cr(III)),(Cr(III),Mn(II))、(Cr(III),V(II))、(Cr(III),V(III))、(V(II)、Mン(II))、(Cr(III),Ni(II))である。得られた有効交換積分の符号は、対称性の規則から得られる符号と一致しており、プルシアンブルー系遷移金属化合物の磁性状態を、対称性に基づく簡単な規則から予測することが可能となった。計算された有効交換積分の数値は、観測値と符号が一致することに加えて、数値的にもかなりの良い一致が見られた。 この研究によって、プルシアンブルー系遷移金属化合物は、その磁性状態が遷移金属および原子価に対し鋭敏であることから、アルカリ金属の濃度、電場などの外場、光励起によって磁性を制御できる可能性を秘めた興味ある化合物であることを示した。さらに、理論的に考えられる制御法として、1)b軌道の制御、2)ド-ピングによる酸化還元、3)電荷移動(CT)を伴った光励起、4)遷移金属原子の部分置換、5)CNの一部置換などを提案した。
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