研究概要 |
本研究は、多核錯体の錯形成過程を表面化学における層成長過程と結び付けて、電極表面への配位子あるいは錯体の固定、配位子への金属イオンの錯形成による多層化および配列制御を行い、二次元表面での新しい分子構築法を作りだすことを目的としている。アンカー部分としてジオクチルジスルフィド基をもつルテニウム錯体を新規に合成した。SAM膜固定のための金属極としては、BAS製金ディスク電極あるいはガラス基板上に金を真空蒸着したAu(111)面が出ている基板を用いた。修飾膜のXPSの測定からRu3d_<5/2>,S2p,N1sがそれぞれ281.3,164,400eVに観測され、金表面上に錯体が固定化されていることがわかった。今回合成したSAM電極の特徴は、有機化合物のキノンと同様にプロトン移動が電子移動と共役することである。錯体のpKaが中性付近にあるので、表面上に存在する化学種のプロトン化状態が溶媒や電極の前処理などで違ってくるので、サイクリックボルタモグラム(CV)の形は測定する溶媒に大きく依存する。ピーク電流値は走査速度に比例して増大することから、錯体は電極表面上に固定化されていることは明らかである。溶液のpHが上がるとともに、ピーク電位は負側にシフトし、ピーク間隔の増加が見られる。EpvspHプロットは3<pH<5の領域で傾き108mV/pH、5<pH<7では60mV/pHで直線的に変化することからプロトン移動と電子移動がカップルした系であることがわかる。ルテニウム錯体SAM膜の酸化に伴うプロトンの電極表面上での出入りを直接観測するために、水溶液を非緩衝条件に保ち蛍光pHプローブを用いた実験を試みたところ、ルテニウム(II/III)の酸化に伴うルテニウム錯体のプロトン解離を蛍光強度の変化として観察できることが明らかになった。
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