本研究は、キラル遷移金属錯体を高分子メディアに導入し、従来の系では達成し得なかった、「不斉触媒反応における新規象」を発見することを目的とし、剛直な、すなわち、高架橋度の高分子メディア中で反応を行った。本研究者は平成9年度、剛直な高分子中に担持したキラルロジウム錯体を調製し、この錯体がオレフィン類の不斉ヒドロホルミル化において均一系に匹敵する高活性並びに高選択性を示すことを明らかにした。この研究成果の上に立ち、当該年度は以下点について検討した。希釈効果に基づく単核キラル錯体の安定化現象:ビニル基を有するキラルホスフィンホスファイト配位子を合成した。そして、このモノマー配位子をエチルスチレン/ジビニルベンゼンと共重合にさせた後にロジウム錯体とした。この高分子錯体は均一系での反応に匹敵する反応活性と選択性を有していた。特に、これまでには報告例のない高度に架橋した高分子に担持した場合にも、この高い活性と選択性は維持された。このことにより、回収・再利用の極めて容易な不斉ヒドロホルミル化触媒が達成された。また、ホスフィンホスファイト配位子上のビニル基の位置や数を変化させ、分子の剛直性の影響を調べた。その結果、配位子を先に高分子に担持する場合にはビニル基の数が多くなると、配位子が配位に不利な配座で固定され、選択性が低下した。これに対し、先にロジウムに配位されてから重合した場合には、高い選択性が維持された。すなわち、ロジウムの鋳型効果の発現が観測された。
|