研究概要 |
ラジカルやイオンの化学反応性は、スピンや電荷が分子内のどの原子上に局在化しているかに依存する。一方、ラジカルイオンは、スピンの分布した場(スピン場)と電荷(正・負)の分布した場(電荷場)とが存在する混成場である。そこで、分子内スピン電荷混成場においてスピンと電荷とを原子レベルで位置選択的に局在化または非局在化、分離または接近させることによって、スピン場と電荷場の相互作用や、スピンおよび電荷の化学反応性と、スピンや電荷の孤立場であるラジカルやイオンの単独の化学反応性との相違から、スピン場と電荷場との相互間系がスピンおよび電荷の化学反応性にどのように影響しているかを明らかにすることを目的として、本研究を行った。短パルス、高強度レーザーフラッシュの照射によって、有機溶媒中の芳香族化合物の共鳴多光子イオン化、また、大阪大学産業科学研究所Lバンドライナックからの電子線パルスまたはコバルト60からのγ線照射による放射線化学反応の手法によって、ラジカルイオンを生成し、生成物分析、電子線パルスラジオリシス法やレーザー閃光分解法を用いて、ラジカルイオンのスピンと電荷の相互作用やその化学反応性の直接測定を行った。具体的には、種々の置換基を持つスチルベンや、種々の置換基を持つシクロアルカンを合成し、これらのラジカルカチオンおよびラジカルアニオン、あるいは1,n-分離型ラジカルカチオンを溶液中で生成し、スピン場と電荷場との相互作用、酸素とのラジカル付加、求核試薬および求電子試薬とのイオン付加などの反応性を調べ、単一のラジカルおよびイオンの反応性と比較検討して、分子内スピン電荷混成場の反応性についてしらべた。
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