研究概要 |
ホスフィン錯体は重要な均一系触媒であるが、疎水性であるためイオン性試剤を用いる反応に適用するにはまだ多くの問題がある。本研究では安価な溶媒系とイオン性試剤を用いながら、これらの問題を一挙に解決する新手法として、相間移動触媒機能を持つ分子をホスフィン側鎖に導入し、酵素に見られるようなProximity Effectを錯体触媒に付与する試みを行った。 四級アンモニウム基およびクラウンエーテルを相間移動触媒機能基として持つトリアリールホスフィンPPh_2(m-C_6H_4CH_2NMe_3Br)およびPPh_2(benzo-15-crown-5)のパラジウム錯体はPdCl_2L_2は粉末にした青酸ナトリウムを用いる固液二相系での芳香族臭化物のシアノ化反応に高い触媒活性を示した。その触媒効率はPPh_3やPPh_2(3,4-dimethoxyphenyl)の錯体と相当する相間移動触媒を用いる混合触媒系より高い。一方、水-有機溶媒の二相系で、これらの触媒は過剰に存在するシアンイオンのため容易に失活したが、この失活は塩化亜鉛の添加により抑制することができた。この液液二相系での相間移動機能修飾錯体の触媒効率はPPh_3やP(P-MeC_6H_4)_3の錯体、およびこれらの疎水性錯体に四級アンモニウム塩を共存させた系より高かった。以上の結果は金属触媒のホスフィン側鎖に相間移動触媒機能を化学修飾することでProximity Effectを発現させることができることを示している。また従来、問題であった分離が、これらの固液および液液二相系反応では生成物と青酸塩の分離が単純なろ過あるいは分液で容易に行えた。
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