従来の不斉合成反応では、不斉配位子と生成物の構造は異なり、異型の不斉配位子および、反応後の不斉配位子と生成物との分離操作が必要であった。これに対し、本研究では不斉配位子と生成物の構造が同一で、異型不斉配位子が不要かつ不斉配位子と生成物との分離操作が不要である省エネ・省資源型の不斉自己増殖反応の開発および関連する不斉合成法の開拓を目的とする。 キラルなβ-アミノアルコールを不斉配位子とする水素化アルミニウムリチウムによるα-アミノケトンの不斉還元により、β-アミノアルコールである不斉配位子が最高90%e.e.で不斉自己増殖することを世界で最初に見出した。すなわち、光学的にほぼ純粋な(S)-フェニル-2-ピロリジニルエタノールを不斉配位子に用い、N-エチルアニリン存在下で水素化アルミニウムリチウムとキラルな錯体を形成させ、2-ピロリジニルアセトフェノンを不斉還元したところ、不斉配位子と同一構造同一絶対配置の(S)-フェニル-2-ピロリジニルエタノールが収率82%、不斉収率90%e.e.で得られた。さらに、ピペリジンあるいはモルフォリン骨格を有するアミノアルコールを不斉配位子に用いた場合も、不斉還元において78-84%e.e.で自己増殖することを明らかにした。以上のように異型の不斉源が不要、かつ不斉配位子と生成物とが同一であるのでこれらの分離が不要である次世代の不斉合成反応を開発した。 また、新規の不斉配位子の開発として、キラルなデンドリマ-およびアミノアルコールを不斉配位子とするN-Dppイミンのジアルキル亜鉛による不斉アルキル化反応により、対応するDppアミンが良好ないし高いエナンチオ選択性で得られた。
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