研究概要 |
[Mo_6E_8(PEt_3)_6](E=S,Se)と硫黄あるいはCp_2TiSe_5をトルエン中で反応させることにより、12核クラスター錯体[Mo_<12>E_<16>(PEt_3)_<10>]を合成した。[Mo_<12>S_<16>(PEt_3)_<10>]のX線単結晶構造解析をおこなった結果、この錯体においては6個のモリブデンが正八面体型のクラスター骨格を形成し、各三角面に硫黄がμ_3‐配位している。2個のMo_6クラスター単位が2本のμ_4-S-->Mo結合によりクラスター間を連結することにより12核クラスターを構成している。空いたモリブデンの末端位には1個ずつのトリエチルホスフィンが配位する。クラスター間のMo‐Mo距離は3.40Åであり、モリブデン原子間に結合性相互作用はほとんどないと思われる。電子スペクトルにおいて、6核クラスターにない弱い吸収が744nm付近に現れるが、他の吸収位置は小さな長波長シフトを示すのみであり、12核クラスターの電子状態は6核クラスターのものに近いと推定される。 6核クラスター錯体[Mo_6S_8(PEt_3)_6]とNOBF_4をジクロロメタン中室温で15分反応し、溶媒を留去後、アセトンで抽出して結晶化すると緑色結晶として得られた。出発クラスター錯体の1個のトリエチルホスフィンがニトロシル配位子に置換された構造であり、NO配位子が直線状に結合したモリブデン原子と4個のモリブデンの距離が、他のMo‐Mo距離より約0.2Å長く、4回軸方向に伸びている。分子軌道計算をおこなうことにより、この顕著な歪みは奇数電子の充填によるヤーンテラー効果とニトロシル配位子への逆供与の効果によることが明らかになった。
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