研究概要 |
シラシクロペンタジエン(シロール)の化学は大いに進展し新しい世紀をむかえた。ここでは対応する新規な2配位ケイ素化学種、シラシクロペンタジエニリデンの合成と反応性、さらに理論的立場からもその構造および電子状態に検討を加えた。 スピロビスシロールをシクロオクチンとベンゼン中反応させるとシリレン前駆体が対応する付加体として得られる。この前駆体は有効なシリレン捕捉剤であるEtMe_2SiHあるいは2,3-ジメチルブタジエン存在下で光分解すると、速やかに反応する挿入生成物および付加環化生成物を脱離生成物とともに与える。この前駆体を3-メチルペンタン(3-MP)マトリックス中77Kで光分解すると、ca.500nmに弱い吸収帯が出現し、吸収強度は照射とともに増加する。また、吸収帯はマトリックスを融解させると完全に消失する。マトリックス中にEtMe_2SiHあるいは2,3-ジメチルブタジエンを存在させると、対応する挿入生成物および付加環化生成物が生成する。以上の実験事実はテトラフェニルシラシクロペンタジエニリデンがマトリックス中で生成したことを示している。電子状態の知見を得るため、無置換シラシクロペンタジエニリデンのabinitio計算を行った。基底一重項および三重項の最適化構造はともにC_<2V>対称で、一重項が三重項より13.1kcal/mol安定であると計算され、環内のブタジエン部分のC-C結合の間には大きな結合交替が観測される。したがって、その反応性を考慮するとsp^2骨格からなるシラシクロペンタジエニリデンではケイ素上の孤立電子対は平面内にあって、反芳香族4π電子系であると帰属される。
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