胃粘膜におけるHPの感染量やスルファチド発現量について、慢性胃炎・胃潰瘍形成が見られるなどHP感染モデル動物として最近特に注目されているスナネズミと、HP感染はするが病変形成の乏しいマウスとで比較検討を行った。スルファチド単クローン抗体を用いる免疫染色で両者の胃粘膜を染色すると、スナネズミ胃粘膜ではマウスと比較しスルファチドの発現が明らかに強く認められた。一方、スルファチド以外の接着受容体の候補とされるGM3やルイスb血液型糖脂質発現は両者で大きな相違を認めなかった。これらを定量的に確認するため、胃粘膜から糖脂質を抽出し、生化学的にスルファチドの定量を行うと、予備的実験ではあるが、スナネズミの胃では単位重量あたりマウスの約7.6倍のスルファチド含量を有することが明らかとなった。これに対し、GM3やルイスb糖脂質の含量は、両者の間に大きな差がなく、免疫組織学的検討の結果とよく一致していた。一定量のHPを経口的に注入し、一定期間後(6週間後)に胃粘膜に定着したHPの菌量を検討すると、スナネズミはマウスよりも一桁以上多い菌数が定着していることが明らかになり、スルファチド発現量との間に関連性があることが示唆された。スナネズミではスルファチドの発現量が多いためより多数のHPが定着し、従ってより強い病変形成が認められるのではないかと考えられた。 接着後の細胞反応のひとつであるIL8産生機構については、基礎検討を行っているところであるが、HPによる細胞接着が必須であることを示唆する結果を得ている。
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