本年度の計画はタンパク質の機能を力学的に変換する基礎実験を原子間力顕微鏡などを用いて行なうこと、およびその結果をもとにタンパク質の機能測定と力学的操作をおこなうためにもっとも都合の良い、近視野顕微鏡の製作を実行することであった。原子間力顕微鏡の視野において球状タンパク質を力学的に延伸する実験を次のように行ない、成果を得た。まずカルボニックアンヒドラーゼとカルモジュリンという2種類のタンパク質のN-末端とC-末端にシステイン残基を遺伝子工学的に挿入した分子を作った。これを原子間力顕微鏡の探針と基板のあいだにはさみ、N-末端、C-末端の官能基を通して架橋した。その後、探針:基板間距離を増すことによりタンパク質をその両端からすこしづつ引き延ばすに要する力を測定した。その力は10ピコニュートンから100ピコニュートンにおよぶ範囲にあることがわかった。しかし、力学的機能変換のためにもっとも重要と考えられ延伸のごく初期の過程は分子の存在状態に敏感に影響されるためほとんど力を要さない時もあるが、100ピコニュートンという大きな力を必要とする場合もある。近視野顕微鏡は蛍光顕微鏡をもとに対物鏡内にレーザー光線を導入しその全反射を利用するタイプのものを設計し組みたてを完了し、現在性能評価と試用を行なっている。始めは原子間力顕微鏡などの方法により機能を変換したタンパク質の活性測定に近視野顕微鏡を使用する。近視野顕微鏡自体を力学的操作に使用するためにはその後レーザーの出力を大きくするか、タンパク質に結合する光受容ラテックス球の大きさを調節する必要がある。以上が本年度の成果である。
|