研究概要 |
過共析炭素鋼をパ-ライトと下部ベイナイトの中間温度域である上部ベイナイト変態域でオーステンパーすれば,粒界にはcolumnar(柱状)な形態のものが,粒内にはnodular(粒状)なものが生成する.これらはcolumnarあるいはnodularベイナイトと呼ばれているが,その形態が高温域で生成するパ-ライト・ノジュールに似ていることから一種のパ-ライトと考えるグループもある.本研究ではこれらのフェライト(α)要素がdisplacive(せん断的)に変態するベイナイトであり,しかもセメンタイト(θ)を先導相とする一種の逆ベイナイトであることを明らかにした. 炭素濃度が0.85,1.10,1.28,1.45,1.66および1.80%の過共析炭素鋼を用いた.これらを1150℃で10min間オーステナイト化後600〜200℃の間の50℃おきの温度でオーステンパーし,光学顕微鏡による形態観察,膨張測定による速度論的研究および透過電子顕微鏡観察による結晶学的研究を行った.450〜400℃の範囲では粒界に生成したものは羽毛状(アシキュラー)であった.350℃以下での粒界および粒内生成物の形態はそれぞれcolumarおよびnodularであった.Bs点は炭素濃度に依存することなく一定のほぼ450℃であった.膨張測定により求めた総合的成長速度のアレニウス・プロットは同一鋼種のものは同一勾配の直線にのったことから.外部形態は異なっていてもこれらが同一メカニズムにより生成したベイナイトであることがわかった.アレニウス・プロットの勾配から求めた活性化エネルギーを炭素濃度に対しプロットしたものは,亜共析鋼の上部ベイナイトのものとは異なる別の直線にのったことから,これらが(正)上部ベイナイトとは明らかに異なるメカニズムをもつこともわかった.外部形態は異なっていたが,その内部組織はいずれも幅約0.2μmのθとαの層状組織から構成されており,晶癖面は{111}_γであった.オーステナイト(γ)とθ間には常にユニークな方位関係が存在したが,γ/α間はK-S関係,その兄弟晶の関係あるいはN関係をとる場合があった.これらの観察結果はθの析出がまず起こり,その周辺にαが生成するという一種の逆ベイナイト変態を想定すると矛盾なく説明できた.
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