フェノール樹旨を出発物質物質として950°Cで焼成したガラス状炭素、さらにそれを様々な温度で熱処理したものを試料として小角X線散乱実験を行った。ガラス状炭素は炭素部分と空孔の二元系とみなすことができる。いわば、物質の分布に不均一がある系であるが、不均一度を測定する手段として小角X線散乱法が優れている。同時に、広角X線散乱も併せて行い、炭素部分の構造についての知見も得、小角X線散乱実験との相補性も議論した。 小角散乱強度は、1800°C以下の試料に対しては、1800°C処理試料の散乱強度に飽和するかのように増加し、それ以上の処理温度では急激に増加した。この変化は、炭素部分の構造変化すなわち結晶子の成長とよく対応している。ガラス状炭素は、従来難黒鉛化性炭素に分類され、コ-クスなどの易黒鉛化性炭素とまったく異なる炭素化・黒鉛化挙動をとると思われてきた。しかし、小角・広角X線散乱実験の結果を総合すると、結晶子のサイズは異なるが、微視的には難黒鉛化性炭素も易黒鉛化性炭素と同様なメカニズムで炭素化、黒鉛化すると結論された。そして、1800°C附近が炭素化と黒鉛化をわける境界である。 ガラス状炭素の熱処理に伴う構造変化のモデルとして以下のようなモデルを提案する。すなわち、初期炭化過程でグラファイトの基本骨格である総合炭素平面ができ、それ自体は熱処理温度が上昇しても、大きく変化しないが、平面の整列化がおこり積層方向の成長がおこる。それと同時に空孔も成長し、炭素部分と空孔部分とのコントラストが小角X線散乱強度の増加として観測される。また空孔は、3000°Cの試料において直径60Aの閉孔と結果される。
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