Si基板上にエピタキシャル成長可能な直接遷移動型半導体β-FeSi_2は、発光素子材料として注目されているが、その磁気的性質は、これまで余り報告されていない。本来ならば磁化特性はSQUID等で測定するべきであるが、Si基板とβ-FeSi_2との選択エッチングは難しく、かつ、β-FeSi_2の数μm程度の厚膜エピキシャル成長技術は確立されていないため、SQUIDでの測定は現時点では有効とは言えない。そこで、本年度は、希薄磁性半導体GaMnAs等で行われているように、ホール測定から得られる磁気輸送特性から、β-FeSi_2の磁気的な性質を明らかにすことを目的に研究を行った。 n-Si(001)基板上に2段階のRDE(Reactive Deposition Epitaxy)法により厚さ5000Åの単結晶β-FeSi_2膜をエピタラキシャル成長した。磁気輸送特性を測定したところ、77K以下において磁気抵抗が磁場の増加にともない減少する負の磁気抵抗効果を示した。10Kにおいて5T印加時、磁気抵抗の変化割合Δp/p(0)=10%であった。これは、これまで報告されているβ-FeSi_2の負の磁気抵抗効果示としては、最も大きい変化割合である。 さらに、ホール抵抗においては、低温になるに従い低磁場領域での立ち上がりが鋭くなり、かつ高磁場領域で飽和する非線形性が確認された。我々の作製したノンド-ブのβ-FeSi_2はp型を示しており、実験で得られた非線形性は異常ホール効果によると考えている。この場合、異常ホール係数が抵抗率に比例すると仮定して導いたArrottプロットから、強磁性転移温度は約15Kと見積もられた。これまでの実験では、ヒステリシス等が未だ得られていないものの、低温においてβ-FeSi_2が強磁性的性質を示す可能性があることが示唆された。
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