高エネルギー物理学実験において用いられる大型の飛跡検出器の性能をシミュレートし、位置分解能の向上を計るために、ドリフトガス中での電子の種々のパラメーターを正確に把握する必要がある。本研究は紫外線レーザーを用いたドリフト速度の測定に続いて、電子の拡散係数、およびローレンツ角を測定する測定装置を開発することを目的とした。このために、本年度は1.5テスラ程度までの磁場中で作動する電子の到達位置を検出できる小型のドリフト・チェンバーを開発設計、製作した。また種々のガス混合系でこれらのデータを得る測定系を確立するため、テストチェンバーへのガス供給システムを構築した。これらにより紫外線レーザーを用いてドリフト電子の到達位置測定精度を確認した後、装置一式を高エネルギー物理学研究所に運び、ここに設置されている電磁石(Ushiwaka)を用いて1.5テスラまでのローレンツ角測定を行った。ガス供給系により、Bファクトリー中央飛跡検出器で使用予定のヘリウム-エタン混合ガスのほか、アルゴン-メタン、アルゴン-エタン、二酸化炭素-イソブタンの各混合ガスについても測定を行い、結果について論文を作成中である。さらに、拡散係数測定用テストチェンバーを設計、製作中である。確立したガス供給システムを用いることにより、ドリフトチェンバーに用いられるほとんどすべての混合ガスについて、実測値の必要な電子のドリフト速度を、必要に応じて常に測定することが可能になった。種々の目的、加速器の衝突エネルギーによって異なる性能が要求される大型の飛跡検出器をシミュレートするために、ドリフト速度のほか、電子の拡散係数、ローレンツ角についてもあらゆる混合ガス系について測定可能な測定系を確立する目途が立った。
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