研究概要 |
SU(1,1)ホリゾンタル対称性に基づいた超対称標準理論の最小拡張模型について、その現象論的帰結を明らかにするために、この模型が与えるクォークやレプトンの質量行列や小林益川行列の構造について検討を進めた。その結果、SU(1,1)対称性を破るスカラー場として2種類の場のみを持ち込むミニマルな模型においては、レプトンとダウンタイプのクォークの質量行列のパターンを同時に無理なく実現するのには無理があり、もっと多くの場を導入しなければならないことが明らかになった。それに伴い模型の自由度は増えるが、反面、任意性も増えてしまう。それをしばるには標準理論のゲージ群を拡張し、大統一理論の中でホリゾンタル対称性を導入するのが自然と考え、その可能性を検討した。近年超対称大統一理論の可能性が大きく期待されているが、この理論には未解決の大きな課題として、いかにして自然に統一エネルギースケールよりはるかに軽いヒッグス粒子が実現されるのか、その機構の解明がある。ノンコンパクトなホリゾンタル対称性はこの大統一理の長年の大課題に対して、極めて明確な解答を与える可能性があることが明らかになった。例えばSU(5)の大統一理論においてヒッグスSU(2)ダブレットを軽くし、同時にSU(3)トリプレットに大統一のスケールの質量を与えるためには、従来の模型では理論のパラメターのファインチューニングが必要であったが、ノンコンパクトなSU(1,1)の無限次元ユニタリー表現を含んだ理論においては、軽い粒子はSU(1,1)の自発的破れによって生じるカイラリティーによってファインチューニング無しに実現される。従って、軽い粒子のスペクトラムは、SU(1,1)とSU(5)の破れのパターンによって定まる相構造に付随して定まることになり、そこには質量の不安定性を引き起こすような階層問題は存在しない。この機構にもとづいた具体的な模型の構築が今後の課題である。
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