研究概要 |
我々の見い出したヒト白血病T細胞株L-MATの、ダイオキシンによるアポトーシス機構を明らかにしていくと同時に、ダイオキシン類化合物の免疫毒性をアポトーシスによって評価するシステム作製の検討を行った。 1. ダイオキシンの作用として、Ahレセプターを介した機構が一般的に考えられていたが、T細胞株L-MATから調製したmRNAを用いて、RT-PCR法によりAhレセプターの発現の検出を試みたが検出できなかった。このことは、ダイオキシンによる新しいシグナル伝達系を介したT細胞のアポトーシス機構の存在を示唆していると思われた。 2. アポトーシスに至る経路に関しては、さまざまなシグナル伝達機構を介した経路が知られているので、それらのシグナル伝達経路の特異的阻害剤を用いることによって明らかにすることを試みた。アポトーシスの最終的な段階で作用するインターロイキン1β変換酵素(ICE)の阻害剤は、アポトーシスを阻止した。 3. チロシンキナーゼの阻害剤,Genisteinは、T細胞株L-MATにおいて、ダイオキシンによるアポトーシスを阻止することを見い出した。この経路は、ダイオキシンからの刺激がSAPK(Stress Activated Protein Kinase/JNK=Jun N-terminal Kinase)を活性化する可能性がある。そこで、JUNを基質としてJNK活性を測定すると、ダイオキシン処理により90分をピークとする顕著な活性の上昇を認めた。 4. ダイオキシン処理によるJNKの活性上昇にともない、アポトーシスの進展に関与するカスパーゼの活性化を抑える分子として知られるBcl-2の発現を、ウエスタン・ブロッティング法で検討したところ、その減少を認めた。 このようなアプローチにより、ダイオキシンの免疫系に及ぼす影響を生物学的に明らかにするとともに、今後は免疫毒性を正当に評価するシステムを開発していく予定である。
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