研究概要 |
諏訪湖沿岸の修復事業を一つのモデルとして、湖沼沿岸修復の生態学的な意義に関しての検討を行った。 (1)抽水植物の代表的植物であるヨシを用いた実験圃場での実験結果から、およそ3,500m^2のヨシ群落では5月から12月までの期間に、流入した全窒素と全容存リンが75%、硝酸態窒素では86%が除去され、ヨシ群落での水質浄化機能の高さが確認された。その多くは懸濁態物質がバイオフィルター効果により除去されるもので、窒素、リンの物質収支からの計算によると、ヨシ自身による除去率は窒素で46%、リンでは36%であった。抽水植物群落の生態学的意義は、これら水質浄化機能ばかりでなく、ヨシ群落を構成する動植物の構成、物質循環系としての構造の形成にあることが指摘される。 (2)エビモを主とする沈水植物群落での生態系モデルの解析により、沿岸域での物質循環量を計算した結果、沿岸域は沖合に比較して単面積当たりの循環量が炭素では2.4倍、窒素では1.8倍、リンでは2.2倍と高いことが証明された。その内容としては、エビモ自身とエビモに付着する付着藻類の存在が大きく関与しており、沈水植物群落全体の浄化量の窒素では40%、リンでは60%に相当することが分かった。 沿岸域は複雑な生態系構造を有し、浄化力の高い場であると共に、多くの生物の生活の場を提供していることでも評価される場である。そのためには沿岸域生態系が複雑な構造を維持し、生態的にも多様な環境が形成されるようなミチゲーション手法が必要となる。ただし、過大な浄化力への期待は禁物で、集水域からの自然負荷に対応する程度と理解することが重要である。
|