Rasは細胞の増殖や分化、癌化において重要な役割を果たしたいる低分子量GTP結合タンパク質である。我々は数年前にRasがセリン・スレオニンキナーゼであるRaf-1と結合することを見い出したが、Raf-1を活性化するにはRasの結合だけでは不充分であることから、RasによるRafの活性化において必要な第3の分子の同定を試みている。平成9年度は、平成8年度に確立した活性変異型RasによるRaf-1活性化の無細胞系を用いて、Ras依存的なRaf-1活性化因子の検索を行った。その結果、、そのような因子が培養細胞であるHEK293細胞やラットの脳から調製した細胞質画分の存在することを見い出し、その部分精製を行った。部分精製標品を用いて、この因子がタンパク質であること、またその分子量は約400Kであることを見い出した。今後は、この因子の精製を進めて、分子の同定を行っていく予定である。またこれと並行してR-Rasの研究を昨年度よりと開始した。R-RasはRasと高い相同性を有している低分子量GTP結合タンパク質で、Raf-1と結合することも報告されている。そこでまずRaf-1の下流に位置するMAPKの活性に対するR-Rasの効果についての検討を行った。その結果、HEK293細胞においてはR-RasもMAPKを活性化したが、その活性化はRasに比べて非常に弱いものであった。また、BaF3細胞においては、R-RasはMAPKを活性化することができなかった。R-RasによるMAPKの活性化もRaf-1を介して行われていると思われるため、Raf-1の活性化についても同様なことが観察されると考えられる。今後はR-Rasの高次構造解析を行うとともに、RasとR-Rasの間でキメラ分子を作成して、Raf-1の活性化におけるRasとR-Rasの差異を検討していく予定である。
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