大腸菌の転写因子であるCRPはRNAポリメラーゼとの相互作用およびDNA構造変化を誘起することにより転写を促進させる。CRPの作用機構(作用点)はCRP結合部位の相対的位置により異なることが速度論的解析から示唆されてきたが、昨年度までに、代表的な3種のCRP依存プロモーターの転写活性化にCRPは共通して活性型転写開始複合体の形成までに寄与しており、それ以降の転写反応には必要ないことを明らかにした。 この過程で、malTプロモーターではCRP非存在下においてもRNAポリメラーゼがヘパリン耐性転写複合体を形成することを見いだした。今年度は転写開始複合体形成に着目してその生化学的性質とCRPの作用について解析を行った。 malTプロモーターにおけるCRP非依存のヘパリン耐性転写複合体はabortiveRNA合成能を有するがrun-offRNA合成能を欠損した不活型転写複合体であった。この複合体はコアプロモーター上流のA/Tに富む領域(UP-like element)の結合様式がCRP依存の活性型転写複合体と異なることが明かとなった。UP-like elementの転写複合体形成とCRPの作用に対する役割を変異体を用いて解析した。その結果、このelementはコアプロモーターとの距離によっては不活型転写開始複合体を形成させるシグナルともなること、CRPによる転写活性化にこの領域が必要であることなどが明らかとなった。即ち、CRPはUP elementとRNAポリメラーゼとの相互作用を調節することにより不活型から活性型転写開始複合体の形成を促進しmalTプロモーターの転写を活性化すると結論した。
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