研究概要 |
S100タンパク質は、細胞周期や細胞の種類に特異的なカルシウム信号のメディエーターの1つと考えられているが、生化学的な機能としては、カルシウム依存的に微小管の解離や集合阻害を助長したり、微小管結合性蛋白質であるタウ蛋白質のリン酸化をカルシウム依存的に阻害したり、キナーゼCの主な基質である87kDaの蛋白質のリン酸化も特異的に阻害するなどが報告されている。これら機能を研究する上で3次元立体構造を明らかとすることは必須の課題である。そこで本研究では、S100蛋白質のCa2+存在下および非存在下での結晶学的研究に取り組み、Ca^<2+>結合型S100b蛋白質の2.0Å分解能のX線構造解析を行った。最終の信頼度因子(R値)が2.0Å分解能で19.4%となり、米国ブルックヘブン研究所のProtein Data Bankに登録を行った(PDB-code:1MHO)。 S100β-鎖の分子構造は4本のα-ヘリックスとそれをつなぐ2つのループから構成され、Ca^<2+>は、Helix1と2および3と4をつなぐループ部分に結合していた。いずれも6配位構造であったが、それぞれ14残基および12残基のアミノ酸で構成されるnon-canonical,canonicalなCa^<2+>結合部位を形成し、結合定数が違うという生化学的情報との一致が得られた。アポ構造との比較から、Ca^<2+>の結合に伴う分子構造の変化をα-ヘリックス間の角度の変化として評価したところ、特にヘリックスIIIが大きく変化しており、ヘリックスIとIIIの間の角度は-63°から-127°、ヘリックスIIとIIIの間の角度は140°から97°、ヘリックスIIIとIVの角度は163°から101°にそれぞれ変化した。また、S100bの2つのβ-サブユニットは主に疎水相互作用によってダイマー形成をしているが、その疎水面はCa^<2+>の結合によって極めて大きく広がることが明らかとなった。標的蛋白質である微小管結合蛋白質タウとの相互作用にはジスルフィド結合が関与するという報告があるが、S100bダイマーの疎水面中に埋もれたCys84がジスルフィド結合の形成に参加することが明らかとなり、構造と機能との相関関係について知見が得られた(Matsumura,H.et al.,Structure,1998 in press)。
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