研究概要 |
ウイルス感染が起きた細胞内では、はじめにI型インターフェロン遺伝子を含む種々の遺伝子の発現が誘導され、抗ウイルス作用などの生体防御機構が働くことになる。これまで、ウイルスあるいは二重鎖RNA刺激に応答する遺伝子のプロモーターには共通のDNA配列(PRDI/ISRE)が存在し、そこにはIFN regulatory factor(IRF)ファミリーに属する転写因子(IRF-1,IRF-2,ISGF3など)が結合することが示されていたが、実際にどの因子がどのようなメカニズムで機能しているのかは明らかになっていなかった。そこで、知られているIRFファミリーに属する分子群についてウイルスによるシグナルへの関与について検討を行ったところ、IRF-3分子の機能について興味深い結果を得ることができた。すなわちIRF-3は、ウイルス刺激によるIFN-αやIFN-β遺伝子プロモーターの活性化を、PRDI依存的に著しく増強する能力を持つことが明らかになった。また同時に、IRF-3を含んだDNA結合活性のPRDI/ISRE配列への結合が検出され、それがウイルスあるいは二重鎖RNA刺激によって特異的に誘導されるものであることが明らかになった。さらに興味深いことに、このDNA結合活性は、種々の転写因子のコアクティベータ-として働くことが知られているp300/CBPとIRF-3との複合体であることが判明した。そこで、この複合体についてさらに詳細な解析を行ったところ、IRF-3は通常そのN端に存在するNuclear Export Signal(NES)の機能により細胞質内に局在しており、ウイルス感染によってC端側に存在する特定のセリン残基がリン酸化されることにより核内に移行し、核内に存在するp300/CBPと複合体を形成すると共にDNA結合能を獲得することが明らかになった。 以上のようにIRF-3は複数の、次のようなドメインを有していると考えられる。リン酸化される部位、NES(あるいはエクスポ-ティン蛋白質と相互作用するドメイン)、核移行シグナル、コアクティベータと相互作用するドメイン、DAN結合ドメイン等である。IRF-3が活性化されるときにはこれらのドメインが単独で機能するのではなく、同一蛋白質分子中の構造変化によるドメイン間の情報伝達がおこると考えられる。そこでこの分子内活性化の構造的理解を目的として大腸菌を用いてIRF-3分子の大量生産を試みた。様々な部分の生産を試みた結果、DNA結合ドメインを欠く約30kDaの分子が大量に生産できることが判明し、その精製を行った。
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