植物の形能は個体発生のプログうムにより規定されているだけでなく、環境からの刺激によっても大きく影響を受ける。形態形成過程における多元的要因の統御は植物特有の現象であり、これは細胞間および細胞内情報伝達や遺伝子転写における複雑な制御機構によって行われているものと考えられる。このような植物形態形成の制御における統御機構を明らかにするため、光などの環境刺激に応答する葉の形態形成および胚軸の伸長に焦点をあて、それに関与する転写因子を中心とした遺伝子発現制御ネットワークの解析を試みた。 ATHB-1の改変遺伝子、HDZipl-VP16-GRを作成しシロイヌナズナに導入した。得られた形質転換体では、子葉および葉の短軸方向における伸長阻害、暗所における子葉および葉の展開など、葉の形態形成に関する変化がグルココルチコイドの添加により誘導された。また、HDZipl-VP16遺伝子を発現する形質転換植物ではこれらの形質が構成的に現われた。これに対してATHB-1そのものを過剰発現する形質転換体においては、明らかな形態的変化は観察されなかった。パーティクルボンバードメント法を用いた解析においてATHB-1は強い転写活性化因子として働くことが示されている。このことから、ATHB-1の転写活性化能はシロイヌナズナにおいて、何らかの形で負に制御を受けていると考えられる。 ATHB-2に関しては胚軸の伸長制御において中心的な役割を果たしているのではないかと考え、ATHB-2の発現量と胚軸の伸長との相関を調へた。その結果、野性型株では近赤外光の付加や暗期の延長による胚軸の伸長とATHB-2の発現量の増加に相関が見られた。しかし、連続光下でも著しい胚軸の伸長がみられるhy3突然変異株においてATHB-2の発現量の増加は観察されなかった。このことから、胚軸伸長の制御は、ATHB-2を介する経路とそうでないものが存在することが示された。
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