塩ストレスによってオオムギ根の伸長が抑制された時、塩ストレスの程度が中程度であったり、一過的であった場合は、新根が発生する。一方、この時いったんストレスを受けて伸長が停止した古い根については、根細胞では核DNA分解を伴う細胞死が起こっていることをこれまで明らかにした。この細胞核DNAの分解は、アポトーシス様の機構が働き、時間的にも早い反応であることから、何か積極的な細胞生理的意味があるのではないかと考えた。具体的には、ストレスを受けた根の物質を分解し、輸送して塩ストレスに適応した新しい根や、地上部の形成に再利用しているのではないかと仮説を立てた。この仮説を検証するために、実験をおこなった。また細胞死と根形成の関係についてさらなる知見を得るため、ヒトおよび線虫の細胞死抑制遺伝子を導入した形質転換タバコを用いて実験をおこなった。 オオムギ根に^<32>Pまたは^3Hで標識したチミジンを根に取り込ませて、根細胞のDNAを標識した。一定の時間根に塩ストレスを与えた後、アポトーシス様の機構で分解された核酸成分が転流・再利用されて、新根あるいは地上部の核酸合成に利用されるまで待った後、新根、地上部から核酸を抽出して、取り込まれた放射能を測定した。その結果、ストレス解除後成長を再開した地上部に有意に標識が入ることが明らかになった。新根にも標識が入るようだが、地上部ほど明確な結果にならなかった。 次にヒトおよび線虫の細胞死抑制遺伝子を導入した形質転換タバコを農水省農業生物資源研究所から提供を受けて、根の形態形成を観察した。形質転換タバコの根は成長が遅くなり、外見上はまっすぐに伸びず、縮れたようになっていた。維管束系を観察したところ、木部の構造に異常が生じた根が多く見られ、道管の通導が悪く、成熟が遅延していることがわかった。細胞死抑制因子が働いて、木部の組織分化・細胞配列に影響を与えた結果と推察された。これらの個体の塩ストレス応答について、現在研究を進めているところである。
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