がん研究においても、突然変異マウスは有力な手掛かりになるが、新しい遺伝子トラップ法を開発するとともに、その方法による変異マウス作製を行なった。遺伝子トラップ法による変異マウス作製において、欠点の一つはトラップの結果完全破壊はできても小さな変異を導入できないことである。バクテリオファージのCre-loxPシステムは、ファージの中では挿入と削除の反応が起こるが、ほ乳類細胞では通常loxPの挟まれた中間のDNAの削除しか利用できない。そこで、いったんDNAが挿入されれば削除できないような変異型loxPを用いれば、挿入も可能と考えられ、事実そのとおりであることが判った。約10%の細胞は組込まれたままであること、したがって変異型loxPにより遺伝子を挿入できることが判った。そこで、この変異型lox71をトラップベクターに利用することとした。これにより、トラップ後に、任意の遺伝子を挿入でき、小さな変異のみならあらゆる遺伝子をその部位に挿入できると期待された。従来のトラップベクターによる遺伝子トラップにより内在性遺伝子を単離し解析したところ、約4割が既知の遺伝子へ、4割がESTのデータベースに出ているものと相同性を有すること、残り2割が全く未知であることがわかった。これた未知のDNAであっても、発現パターンは特異性があるところから、遺伝子へトラップした可能性が高いと考えられる。以上から、胚葉体形成というスクリーニング系を用い、loxPを応用したトラップベクターを用いることにより、より効率的に遺伝子破壊マウスを作製し、かつ破壊した遺伝子を容易に単離し、その発現パターンを解析できることがわかった。今後、多数の変異マウス作製を試みる予定である。また、巨大DNAの導入は、遺伝子機能の解析に有力な方法であると考えられるが、酵母人工染色体と細菌人工染色体について、マウス受精卵への導入法を確立した。
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