我々がラット初代培養細胞cDNAライブラリーから分離したdrs遺伝子はC端に膜貫通ドメイン、N端に接着因子であるセレクチンファミリーに保存されている補体結合モチーフを持ち、種々の癌遺伝子によってそのmRNAの発現がdownregulateされること、およびラット細胞株に強力なプロモーターのもとで高発現させるとv-srcなどの癌遺伝子によるトランスフォーメーションを抑制することから細胞癌化に大して抑制的に働く新規癌抑制遺伝子である可能性が高いことが分かってきた。本年度、我々はdrs遺伝子のヒト癌発生への関与の可能性を検討するためにdrs遺伝子のヒトホモログを分離しヒト癌細胞におけるdrs遺伝子の機能を解析し以下のことを明かにした。 1.ヒトdrs遺伝子のmRNAは心臓、大腸、小腸、前立腺、精巣、卵巣、などの正常組織で高発現しているのに対し末梢血、脳などではほとんど認められずその発現には組織特異性がある。 2.調べたほとんどの大腸癌細胞株と約50%の卵巣癌、精巣癌においてdrs mRNAの強い発現低下が認められた。 3.レトロウイルスベクター(pBabePuro)にdrs遺伝子を組み込んだamphotropic virusを作成し、drs mRNA発現が低下していた大腸癌細胞株LoVoに導入して、その癌化形質の変化を調べたところdrs発現細胞ではvecterだけの細胞と比べて細胞形態の顕著な変化とsoft agarでのcolony形成の低下が認められた。また、細胞増殖能もdrsの導入によって抑制された。 これらの結果はヒト癌の発生においてもdrs遺伝子が抑制遺伝子として機能している可能性を示している。今後、drs遺伝子による癌化抑制の機構を明かにするためにこの遺伝子の癌化抑制活性に必要な領域を特定するとともに、drs蛋白が実際に細胞内でどのような場所で機能しているのか、またどのような細胞内蛋白に作用しているのかを検討して行きたい。
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