研究概要 |
我々は、原因不明の高心拍出性心不全を合併した多発性骨髄腫(MM)症例を経験し、この病態が原疾患の憎悪と相関したことから、腫瘍細胞から末梢血管拡張作用のあるNOが産生されているのではないかと考えた。また最近、種々の腫瘍がNOを産生し、また腫瘍自体あるいはそれ以外で産生されたNOが腫瘍の増殖に影響を与えているという報告が蓄積されつつある。今回MMさらには他の造血器腫瘍によるNO産生の有無、及びその意義について検討した。NO自体はきわめて微量ではたらき、しかも半減期が短いため直接的な証明は困難である。そこで我々はNO合成酵素(iNOS)の存在をRT-PCR法で検討した結果、成人T細胞白血病(ATL)とMM由来細胞株でiNOSmRNAの存在を証明した。MMでは3つの細胞株(KHM-4,KHM-11,RPMI8226)で陽性であったが、KHM-4,KHM-11は原因不明の高心拍出性心不全を合併した患者より当科で樹立された細胞株である。高心拍出性心不全は、腫瘍細胞のiNOSによって産生されたNOによっていたのではないかと考えている。ATLでは患者サンプルでも検討したが、9例中4例が陽性であった。さらに我々はNOの前駆体であるアルギニンで、骨髄腫細胞にアポトーシスが誘導されることも明らかにした。iNOSによるNO産生は、アルギニンの濃度に比例するという報告があることから、NOを介してアポトーシスが誘導されている可能性が高い。以上の事実を踏まえ、今後腫瘍細胞から産生されたNOがどのように病態を修飾しているのか、NOが腫瘍細胞増殖にどのような影響を及ぼしているのかをさらに検討していきたい。
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