抗腫瘍剤の副作用にはいろいろあるが、その一つは消化器症状である。とりわけ、カンプトテシン誘導体イリノテカンと5-fluorouracil(5-FU)およびその関連薬物5'-deoxy-5-fluouridine(5'-DFUR)による重度の下痢は40-50%の高率で発生する。塩酸イリノテカン(cpt-11)は、肺癌、大腸癌、卵巣癌などの難治性の癌にも優れた効果がある。しかし、新聞にも報道されたごとく、その副作用として激しい下痢や白血球減少があり、その使用は現在厳格にコントロールされている。他方、最近の1-leucovorinと5-FUの併用療法の進行結腸・直腸癌に対する前期第II相試験結果や進行胃癌に対する後期第II相試験結果によると、その主要な副作用は下痢と白血球減少であった。 本研究では塩酸イリノテカンによる下痢発症機構を解明し、その下痢抑制方法を確立することを目的とする。化学療法剤塩酸イリノテカンによる下痢発症機構について、以下に述べるような成果を得た。 In vitroラット大腸粘膜におけるchamber実験より、塩酸イリノテカンは濃度依存的に1)大腸粘膜による塩酸分泌を刺激すること、2)大腸粘膜下細胞からトロンボキサンA_2(TXA_2)を遊離させること、3)TXA_2 antagonistsあるいはTXA_2合成阻害剤により塩酸イリノテカンによる塩酸分泌刺激作用が抑制されることがわかった。また、塩酸イリノテカンのかわりに、TXA_2の安定誘導体STA_2を使用しても、塩酸分泌刺激作用が観察された。このSTA_2の作用は、単離大腸クリプト細胞のパッチクランプ電気生理実験より、この細胞の分泌側細胞膜に存在する塩素イオンチャネルが開くことによることを、確認した。したがって、塩酸イリノテカンによるこの塩素イオン分泌刺激は、過剰イオン・水分泌による下痢誘発機構となることがわかった。
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