本研究ではアデノウイルスの遺伝子の複製研究から新たに見いだされ、急性骨髄性白血病との関連が示唆されている細胞因子TAF-I(Template Activating Factor-I)の機能解析を行なった。作用機構の解析から、TAF-Iはクロマチン構造を変化させる(クロマチンリモデリング)ことで抑制状態の遺伝子を活性化する機能をもっていることが示されている。機能構造に関する研究では、TAF-Iはクロマチンリモデリング活性を持ち、この活性にはC末端側に存在する高酸性領域とその直前の領域が必要であることが示された。この高酸性領域は核タンパク質であるTAF-Iの核内移行後の核内残留にも関与していることが示された。TAF-IはN末端側の40アミノ酸から成るColled-coll構造を形成すると考えられる領域で2量体を形成して存在しており、2量体形成が活性には必須であった。多量体形成ドメインを持ちTAF-I活性に必須なC末端側の酸性アミノ酸領域を欠いた変異体はドミナントネガティブ変異体として機能することも示された。さらに、TAF-Iがプロテインフォスファターゼ2Aの阻害因子であることが示され、この活性にはクロマチンリモデリングに関る領域とは異なる領域が関与していることが明かとなった。機能制御に関する研究では、TAF-Iの活性は2種類のサブタイプの比率およびリン酸化による修飾によって制御されている可能性が示唆された。これらの解析結果は、TAF-Iの正常細胞と細胞のがん化過程における生理機能を解析するための重要な基盤である。
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