研究概要 |
チトクロム酸化酵素による酸素分子の還元とそれに同期したプロトンの能動輸送の分子機構を解明するために、ウシ心筋より精製したチトクロム酸化酵素のX線結晶構造解析を行っている。酸化型の2.8Å分解能での結晶構造解析に続いて、2.3Å分解能での酸化型、低温酸化型、還元型、CO化型、CN化型、アジド化型の構造解析を進めている。これまでにこの酵素の機能と密接に関連した構造が明らかになってきた。これまでに、分子内にはヘリックスの軸方向に走るプロトンチャネルがあることや、活性中心で合成された水分子が分子の外に排出されるのに都合の良い構造があることが明らかになっている。 本年度はプロトンチャネルを形成する上で重要な役割を果たす水の構造を明らかにすることができた。構造決定は2.3Å分解能の酸化型結晶について行った。水分子の位置は重原子同型置換法による電子密度図や(Fo-Fc)フーリエ合成図に基づいて拾い上げたものを、プログラムXPLORによって精密化した。その結果、約600分子の水の構造を決定することができた。そのうち活性中心であるヘムa,ヘムa_3、CuA、CuB、Mgのそばにあるものを図に示した。膜蛋白質であり、分子内部にあるにも拘わらずヘムのプロピオン酸残基やMgの近くには水分子が数多く見つかった。酸素還元中心であるFea3-CuB複核中心からアミノ酸側鎖を介したこれらの水分子への水素結合の繋がりがある。この繋がりは生成された水が排出される経路となっているのであろう。これらの水分子の多くはアミノ酸側鎖や他の水分子と互いに水素結合で結ばれており、プロトンの能動輸送に関わるチャネルの一部にもなっている。この結果、以前に挙げていたプロトンチャネルの候補をより詳しく特定できるようになった。
|