研究概要 |
急速かつ大量のプロトン(H^+)排出機構として働くと推定されている膜電位依存症H^+チャネルの分子構造や活性化機構などについては未解明な部分が多い。本研究で、私達は骨髄幹細胞由来マスト細胞に存在するH^+チャネル活性の高い温度依存性に着目し、その活性化機構に関わる要因の解明をめざした。細胞内ATP非存在下でのH^+コンダクタンスは32℃において104±54pS/pF(mean±S.D.,n=10)でATP1mM存在下(216±143pS/pF、n=10)に比べ小さかった(P<0.05)。一方、細胞内ATPを1mMのATPγSで置換しても、コントロールとの間に差はなく、チャネル活性は非加水分解性ATP結合に部分的に依存すると推定された。24-32℃でH^+コンダクタンスのQ_<10>は1mMATP存在下での6.0±2.6(N=9)に対し、ATP非存在下、1mMのATPγSではそれぞれ3.0±0.8(n=7)、3.4±1.3(n=8)で有為に小さかった(P<0.01,0.05)。次にBCECFで細胞内pHを検出すると、H^+チャネル活性を反映すると考えられる細胞内アシドーシスからの急速なpH回復過程が、PKCinhibitorであるstaurosporin(1 nM)で強く抑制された。1μM PMAをピペット溶液に添加するとホールセル形成後100秒以内にH^+コンダクタンスは1.55±0.47(n=9)倍に増大し、細胞外液に100nM PMAを添加すると活性化電位の過分極側への移動と活性化速度の短縮を伴ってコンダクタンスが増大した(n=3)。H^+電流の脱分極による緩除な活性化過程はdouble exponential curveあるいは3次のHodgkin-Huxley型curveでよく近似された。+60mVでの定常電流推定値のQ_<10>は2.3±1.2(n=5)、活性化速度のQ_<10>は3.1±1.9(n=5)で、コンダクタンスのQ_<10>には少なくともこの2つのパラメータの温度依存性が関与することが明らかになった。以上の結果より、H^+チャネル活性は細胞内ATPレベルに部分的に依存し、PKC活性など細胞内メタボリズムの変動に敏感に変化し、温度依存性の一部は細胞内代謝を介する調節機構によると推定された。これらの現象の詳細な解析とH^+チャネルによる細胞内H^+シグナルの調節の機能的意義の解明は今後の課題である。
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