本研究課題はエイズの病原ウイルスであるHIVの増殖を制御している細胞性因子の機能解析と、それに基づいた抗ウイルス剤の標的検索を目的としている。ウイルス側の因子として対象としたのはTatやRevなどの調節遺伝子とEnv、更に転写調節領域であるLTRであるが、特に本年度はウイルス感染時に重要となるEnvを中心に検討を加えた。 HIVのEnv(TM蛋白)の細胞質ドメインは他のレトロウイルスに比べ有意に長いことが知られており、そのウイルス複製に対する関与が示唆されている。ここでは点変異の導入によってTM蛋白細胞質ドメインに終止コドンを導入して種々の長さのC末を持つ変異体を作製し、ウイルス複製、各感染過程、蛋白発現などの解析を行った。その結果(1)TM蛋白細胞質ドメインはウイルス粒子の感染性発現に重要である(2)その機序としてはウイルス粒子へのEnv蛋白の取り込み量低下も一因として挙げられるが(3)Env前駆体であるgp160型の蛋白が粒子内に取り込まれることのほうが感染性低下に対する効果が高い事が示された。つまり通常では前駆体であるgp160はウイルス粒子に取り込まれないように何らかの選択がかけられてしいるが、C末の欠失によってその選択性が低下したものと考えられる。 gp160型では感染性や細胞融合活性が認められないことから、部分的なgp160の混在によってウイルス粒子全体の感染性が阻害された可能性があり、このことはC末欠失gp160がドミナントネガティブ変異体としてウイルス増殖を阻害できることを示唆している。また以上の機能には細胞選択性があることから、A3.01細胞など主にリンパ球系の細胞に特有な細胞性因子がその機能に関与しているものと思われる。この細胞性因子の解析によっては新たな抗ウイルス剤の標的が得られる可能性があるものと考えられる。
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