内耳の損傷により前庭機能が低下するがそれが回復する過程での中枢神経系における可塑性担当分子の検出を試みた。内耳破壊後、前庭代償が生じる過程で前庭小脳である片葉を取りだし、RNAを回収しディファレンシャルディスプレイ法等を行い遺伝子探索を行った。その結果GluRδ2が得られた。本遺伝子は東京大学医学部三品教授がノックアウト動物を持っておられるので、ノックアウト動物による解析を試みた。GluRδ2ノックアウト動物では、前庭傷害後前庭代償が遷延することが明らかになった。GluRδ2が前庭代償の過程で何らかの役割を果たしていることが明らかになったが、GluRδ2ノックアウト動物では小脳の回路自身に以上があることもあり、特異抗体等を用いた免疫組織化学的な解析が必要であると考えられる。現在特異抗体を入手し、免疫組織化学的に蛋白レベルでの変化が見られるかを検討している。また、これとは別にNO合成酵素であるNO合成酵素(NOS)の新たな発現が前庭障害時に前庭小脳である片葉に起こることを見いだした。NOSが発現する細胞は(unipolar brush cell;UBC)と呼ばれる細胞で前庭小脳にのみ認められる特長的な細胞である。UBCは前庭傷害後にNOを産生し、これが前庭代償に何らかの貢献をしていると考えられたので、前庭傷害後NOインヒビターであるL-NAMEを片葉に局所注入を試みた。その結果著しい前庭代償の遷延が認められた。本結果から前庭代償には明らかにNOの関与があることが判明した。しかしながらUBCを含む小脳の回路のうちどの部分でNOが関与しているのかの詳細については、今後の検討が待たれる。
|