我々は比較的構成が単純で、遺伝学的アプローチが可能なショウジョウバエ神経-筋結合をモデル系として、神経特異認識に関与する分子の同定、機能解析を行っている。今年度は、昨年度に引き続き、LRRファミリーに属する新たな神経認識候補分子、Capricious (Caps、旧P750)に関する研究、特に機能解析を進めた。まずimprecise excision法により機能欠損株を作製した。これらはsemi-lethalであった。欠損体幼虫における運動神経の投射、シナプス形成の過程を調べたところ、特定の筋肉におけるシナプス形成に異常が見られた。特にプレ、ポスト双方で通常capsが発現している筋肉12におけるシナプス形成過程において、神経終末がこの筋肉に限局されず、近傍の筋肉13(capsを発現しない)へ進展しているような形態が約25%の体節で観察された。次にUAS-GAL4システムを用い、筋肉全体におけるcapsの異所発現を誘導し、筋肉12神経終末形成への効果を調べた。その結果機能欠失胚と類似した、しかしより高頻度(約70%)でより激しい(筋肉13における異所的シナプスが広い領域に渡っている)表現系が観察された。以上の結果から、capsはおそらくホモフィリックな作用を通じ、筋肉12とその支配神経との間の認識に関与していることが強く示唆された。機能欠失と異所発現の表現系が類似したものであることは一見矛盾しているようであるが、機能欠失における表現系は標的特異性あるいはシナプスの安定化が損なわれた結果、異所発現における表現系は筋肉13上のcapsが積極的にこの運動神経に働きかけた結果であると解釈すれば説明がつく。現在このモデルを検証するためさらに詳細な解析を進めている。
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