本年度の研究の目的は、(1)ラット線条体スライス実験によりコリン作動性ニューロンに対するドーパミンの作用を調べる、(2)直接路、間接路の中型有棘細胞をそれぞれ同定し、ドーパミンに対する作用を調べ、両者に生理学的性質に差があるかについて調べることであった。このうち実現できたのは(1)のみである。従来、ドーパミンとアセチルコリンはパーキンソン病患者などの臨床的な観察から拮抗関係にあることが想定されていたが、ここ数年のmicrodialysisを用いた詳細な研究の結果、ドーパミンは逆にアセチルコリンの放出を増すらしいことが次第に明らかになってきた。その機序のひとつとしてコリン作動性ニューロンのもつD5受容体を直接介する機序が考えられる。本研究において、ラット線条体スライス標本を用いた生理学的実験により、事実ドーパミンはコリン作動性ニューロンの殆ど全てを興奮させること、その機序はドーパミンが直接D5受容体を活性化し、アデニレートサイクレース系を活性化することにより、Kコンダクタンスの抑制と非特異的陽イオンコンダクタンスの開口を引き起こすこと、これによりコリン作動性ニューロンの脱分極を引き起こすことが明かとなった。D5受容体の活性化はコリン作動性ニューロンにおいて見られる興奮性後シナプス電位のうち、NMDA成分を増強することが知られており、またコリン作動性ニューロンの浅い静止膜電位は1、2個の興奮性後シナプス電位で十分発火の閾値に達することが知られていることから、ドーパミンによるD5受容体の活性化による膜の脱分極は結果的に皮質や視床からの入力による発火の閾値を押し下げることになり、microdialysisで観察されたアセチルコリン放出の促進をひき起こす結果となるものと考えられる。
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