SRKラット(shaking rat kawasaki)は、常染色体劣性遺伝性の神経奇形ラットで、小脳性運動失調を特徴とする。我々はSRKラットの錐体路ニューロンを逆行性に標識したところ、リーラーマウスと同様に本来5層に限局すべき錐体路ニューロンが皮質の全層に分布していた。そこで、本年度は、形態学的手法とリーリンcDNAプローブを用いたgenomic Southern法などの分子生物学手法を用いてこのラットの遺伝的背景をさらに検討した。 まずHRPをSRKラットおよび対照動物の運動性視床中継核の外側腹側核に注入したところ、正常ラットでは皮質の最深部である第6層に皮質視床投射ニューロンが逆行性に標識されたが、SRKラットでは皮質の最表層に標識ニューロンが存在した。さらに大脳皮質の外側部領域の第5および6層の非錐体形ニューロンを染めるラテキシン抗体を用いてSRKラットおよび対照動物の大脳皮質を免疫染色したところ、ラテキシン免疫陽性ニューロンは、SRKラットの外側部皮質の最表層と最深層に分布した。次にカハール・レチウスニューロンに発現するリーリン蛋白を認識するCR-50モノクロナール抗体(小川博士恵与)を用いてSRKラットの大脳皮質を免疫染色したところ全く陽性ニューロンは存在しなかった。リーリン遺伝子の後半をコードするcDNAプローブ(林崎博士恵与)を用いてin situ hybridizationを行うと、シグナルはほとんど検出されなかった。リーリンのさまざまな部位のcDNA(Tom Curran 博士恵与)を用いてサザンを行うと、ジャクソンタイプリーラーのような広範な遺伝子欠損はなかった。以上より、SRKラットはリーラーマウスと同様にリーリン蛋白の欠損が原因と思われるが、しかしジャクソンタイプリーラーのどうな大きな遺伝子欠損ではないことが明らかにされた。
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