本研究では耐熱性リンゴ酸脱水素酵素tMDHを用いて、タンパク質内部の疎水性コアがタンパク質の安定性に及ぼす影響を調べるとともに、酵素の構成単位であるドメインの折り畳みとその安定性を調べることで、耐熱性タンパク質の安定性と折り畳み機構に関する知見を得ることを目的に研究を行った。 tMDHはN末側のNAD結合ドメイン(1-154aa)とC末側の触媒ドメイン(155-327aa)に分けられることから、サブユニット境界で両ドメインを分断した分断化tMDHを作製することとした。この分断酵素は、基本的に野生型酵素と同様な酵素活性を示す正確に折り畳まれた4量体酵素として生産されした。しかしながら、サブユニット境界は分子内部にあることより、耐熱性は20℃近くも低下し、塩酸グアニジンに対する変性濃度も4M程度低下した。精製酵素を変性剤存在下で陰イオン交換に供することにより、両ドメインを分離することに成功した。分離した溶液から変性剤を希釈することにより、両ドメインのフォールディングを行わせ、その構造の回復をCDで追跡したところ、両ドメインともに速やかに2次構造を形成することが明らかとなった。両者のCDスペクトルの和は、変性剤を含まないものの80%程度のCDの値を示したことから、両ドメインは基本的には自律的にフォールディングすることが示唆された。 次に、分子内部の疎水性コア部分のパッキングに着目し、2つの新規なプログラム(最適なパッキングを生じさせるアミノ酸配列を与えるプログラム並びに安定性に関する熱力学的パラメーターをを予測するプログラム)を開発し、その結果を実験的に検証することとした。tMDHと中温菌である大腸菌のMDHの同一疎水性コアにこのプログラムを適用し、その安定性の変化の予測が、実際の実験の結果と半定量的に一致することが確かめられた。また、大腸菌のものはパッキングにまだゆとりがあること、tMDHではすでにほぼ理想的にパッキングされていることも明らかになった。さらに、天然状態のパッキングのエネルギーと変性状態の水和及び側鎖エントロピーを考慮した安定化ギプス自由エネルギーの予測法がこれまでのものより優れていることが明らかとなった。
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