リゾチームが還元状態からどのような道筋で再生するかを変異体を用いて解析した。Trp62をGlyへ置換した変異体を用いて還元状態から再生実験を行った。野生体は再生反応を開始した後速やかに活性の発現が認められた。一方、変異体においては再生反応開始直後から約1分間活性を発現しなかったが、その後野生体に比べゆっくりした速度で再生した。そこで、野生体及び変異体を1分、3分、5分及び30分間再生反応した後、ヨード酢酸を用いて遊離のチオール基をトラップし、ゲルクロマトグラフィーを用いてどのような大きさの分子種が生成しているかを調べた。野生体に比べ変異体では、再生反応開始直後にサイズの大きな分子種のポピュレーションが明らかに増加していた。この結果から、Trp62をGlyに変えたことでリゾチーム内の単独で構造を形成し得るペプチドAsn59からMet105を含む領域の構造形成が遅くなっており、変性構造を持つ分子種のポピュレーションが増加していることがわかった。このことを明確にするために、上述したトラップ時間において得られた生成物をトリプシン消化し、逆相HPLCによりジスルフィド結合の形成を解析した。この変異体においてもジスルフィド結合の形成される順序は野生体と同一であったが、再生1分後のそれらの生成量は、野生型に比べ明らかに低下していた。以上の結果から、Trp62のGlyへの変異体において、再生初期の構造(おそらくペプチドAsn59からMet105を含む領域)形成が非常に遅くなったと結論した。即ち、リゾチームの還元状態からの再生過程において、まずペプチドAsn59からMet105領域が形成し、その後これ以外の領域が形成することが強く示唆された。
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