研究概要 |
蛋白質などの生体高分子の全体振動は、その分子の機能発現に係わっていると考えられている。この振動は、低振動数領域のラマン散乱や非弾性中性子散乱などで測られるが、エネルギー分解能が高いラマン散乱では、微細な差を検出できる。 今年度は、リゾチームおよびBPTI結晶の偏光ラマンスペクトルを測定し、蛋白質による違い、偏光特性などを考察した。用いた試料は、各辺0.3mm以上の単結晶である。 蛋白質には、200cm^<-1>以下の領域に、分子全体の振動に由来する複数の散乱ピークが存在する。リゾチーム正方晶の偏光ラマン測定により、それらは蛋白質分子内の振動であることが分かった(Urabe et al.,1998)。また、BPTI斜方晶の偏光測定から、スペクトル強度は結晶対称性より蛋白質分子の向きに依存することが示唆された。また、リゾチームとBPTIではスペクトルが異なる。従ってこれらのモードは、単独の蛋白質分子に由来すると結論された。 リゾチームおよびBPTIのスペクトル(1〜250cm^<-1>)を、5つの減衰調和振動子と、2つの緩和モードの和でフィットさせた。大きさも形も異なる2つの蛋白質のスペクトルが、同じ関数で表されることから、ラマンスペクトルは蛋白質の部分的な構造(2次構造など)を反映している可能性も考えられる。この2つの蛋白質に関して、基準振動解析の結果との比較を行っている。 一方、ラマンスペクトルに現れる緩和モードは、水分含有量を変えたときの強度変化から、結晶水に由来すると考えられる。リゾチーム結晶には、〜10^<-11>sと〜10^<-10>sの2つの緩和時間をもつ結晶水が存在することがわかった(Urabe et al.,1998)。BPTI結晶においては、リゾチームのそれぞれ1/2程度の2つの緩和時間が得られた。
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