研究概要 |
本研究は抗体CDRのアミノ酸配列と抗原特異性の相関関係を解析する目的で進められている。平成9年度は次の2点の成果を得た。ステロイドには様々な誘導体が存在する。そこで抗ステロイド抗体を用いて抗原特異性の変換実験を行った。抗17α-hydroxyprogesterone(17-OHP)抗体である1E9に変異を導入してcortisol結合能を持つ抗体を単離することを試みた。最初コンピュータを用いて抗原結合部の立体構造モデルを構築した。次に推定される抗原接触部に多様な変異を導入したライブラリーを構築した後cortisolを抗原にpanning法により抗cortisol抗体を単離した。この方法は一般性が高く、抗11-deoxycortisol(11-DC)抗体SCETを用いて抗cortisol抗体を得ることにも成功した。最後のスクリーニングの段階で、11-DCを過剰に共存させることにより11-DC結合能を大幅に減少した抗体の単離が可能になった。もう一つの研究はCDRの移植実験である。抗原結合部はCDRに位置するアミノ酸によって形成されるが、フレームワークに位置するアミノ酸の中にもCDRの立体構造に影響を与える残基が存在することが知られている。抗チトクロームC抗体E8と抗ニワトリ卵白リゾチーム抗体D1.3の間でV_HドメインのCDR移植実験を行ったところ、フレームワークの一部である94番目のアミノ酸がE8抗体に於てグリシン(E8)からアルギニン(D1.3)に変換するだけでチトクロームC結合活性を失う。その結合活性を失った抗体をコードする遺伝子を鋳型にしてerrorprone PCRを行い活性の回復した多数のクローンを解析したところ、94位の変異以外に、94位をアルギニンにしたまま101位の変異又は27,29位の同時変異でも活性の回復が起る。29,94,101位のアミノ酸に系統的な変異を導入したクローンを作製し、それぞれの特徴を調べた。その中でとりわけ101位は重要で、アスパラギン酸(E8)をアスパラギンに変化するだけで数10倍の結合活性の増加が起る。現在この中の代表的なクローンについて中村博士(生物分子光学研)と共同して立体構造解析によりこの現象の解明を進めている。
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