本研究では、低温下での蛋白質の内部振動状態と水和構造の相関を調べることを目的として、立体構造が異なる複数の蛋白質の水和構造解析を、低温X線回折実験データを元にして行った。測定対象としては、高分解能での結晶構造解析が可能なトリプシン、リゾチーム、抗体Fvフラグメントを取り上げ、100〜200Kの間の複数の温度点で回折強度データを収集した。何れの結晶での1.5〜1.4Å分解能までの高精度回折強度データに基づいて構造精密化および水和構造解析を行った。今回測定した温度範囲では、何れの蛋白質でも周辺の水和構造に大きな変化はなく、水和水のネットワーク構造も劇的に変化することはなかった。一方で220K以上の温度での測定では、精度が不十分ではあるものの観測される水和構造が著しく矮小化する傾向にあるという結果が得られており、蛋白質内部振動が水和構造の影響を大きく受けているらしいことが強く示唆された。 低温冷却方法における結晶冷却速度を高めるため、従来の低温窒素ガスを用いたフラッシュ冷却法に加えて、液体エタンを利用した急速冷却用装置の開発を行い、上記蛋白質結晶の低温回折実験に適用した。興味あることに、エタン冷却では、蛋白質の熱振動が、フラッシュ冷却よりも見かけ上抑制されることが判明した。 これら研究の他に、低温結晶構造解析実験技術を駆使して、シタロン脱水酵素と阻害剤複合体、光応答性ニトリルヒドラターゼの結晶構造解析を行った。
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