Xist遺伝子の5領域に認められる3通りのメチル化パターンを中心に、X染色体の不活性化現象の研究を進めた。(1)免疫手術により胚盤胞から分離した内部細胞塊への栄養芽細胞の混入を検出する系をEndoA遺伝子をマーカーとして確立した。今後、栄養芽細胞の混入と性のチェックと並行して、HpaII PCRによりXist5'部位にあるCpG配列のメチル化の状態を雄について検討する。(2)T(X;16)16H転座を持つ雌マウスで、正常X染色体が不活性化する原因を検討した。受精後6.5日〜7.5日の胚体部では、転座XのXistアレルは発現しないため、正常Xが優先的に不活性化すると判断した。しかし、X連鎖lacZトランスジーンを用いると、転座雌でも20-30%の細胞が染まった。従って、(1)転座染色体は不活性化しにくく、lacZ遺伝子の発現抑制が遅れる、(2)転座X染色体は選ばれながら不活性化されないという可能性が浮上した。不活性化センターの機能が転座によって影響を受けたと考えられるが、更に検討した結果、Xistなど不活性化センターの中央にある遺伝子ではなく、転座点に原因があることが示された。(3)マウス・ヒト細胞雑種CF150では、ヒト染色体として唯1本含まれるX染色体は不活性でありながら、ヒストンH4はアセチル化していない。所が、HeLa細胞と融合するとH4はアセチル化されることが判明した。この系は不活性化におけるヒストンH4の役割とその制御の解析に役立つものと考え検討を続けている。
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