出芽酵母のNpslpはヌクレオソームのリモデリングを介して複数の遺伝子の転写調節に働くことが明らかにされたSWI/SNF複合体の主要サブユニットであるSnf2pと相同性を持つ分子量約160KのG2/M期の進行に必須な核蛋白である。最近、Nps1pは10数種の蛋白と複合体(RSC)を形成し、クロマチンのリモデリングに働いている可能性が示された。RSCの構成蛋白はNps1pを含めていずれも細胞の生育に必須であるが、RSCの生理機能は不明である。我々は、NPS1の温度感受性変異株を2株分離し、これらがそれぞれNps1蛋白中に2カ所存在するATP結合部位近傍に点変異を持つ事、また、変異株の一つ、nps1-105が温度感受性の他に、微小管の重合阻害剤として知られる一群の薬剤(例えばチアベンダゾール、TBZ)に特異的な感受性を示すことを見出した。nps1-105変異株の温度感受性、ならびにTBZ感受性を抑圧する多コピーサプレッサー遺伝子をスクリーニングし、NPS1を含む10種の遺伝子をクローニングした。この内の一つであるBIM1は、チューブリン結合蛋白をコードしていた。nps1-105の表現型はBIM1の破壊によって増強され、両遺伝子の機能が密接な関連を持つと考えられた。nps-105変異はBIM1の転写や、Bim1pの安定性には影響を与えなかった事から、NPS1はBIM1の転写、および翻訳後の安定性の調節には関わらないと判断された。nps1-105を制限温度で処理すると、M期におけるミニ染色体の娘細胞への分配の精度が低下し、制限温度下でのG2/M期停止は、スピンドルチェックポイント機構に働くMAD1遺伝子に依存する。これらnps1-105の表現型は、セントロメアの機能に欠損を持つものと類似してた。そこで、変異株の第三番染色体のセントロメア近傍のクロマチン構造を調べた結果、制限温度処理によって、ミクロコッカスヌクレアーゼ(MNase)の切断パターンが変化すること、ならびに、正常細胞ではキネトコア蛋白の結合によって保護されている制限酵素部位の露出が起こることが観察された。しかし、nps1-105のゲノム全体でのMnaseへの感受性は野生株と変化がなく、内在性プラスミドの超螺旋構造も、野生株のものと差異がなかったことから、nps1-105変異は正常なセントロメア構造の形成あるいは維持に欠損を持つと考えられた。以上の結果は、Nps1pあるいはRSC複合体が、増殖に伴うセントロメア等の染色体の特定部位での染色体高次構造の維持と変換に働いている可能性を強く支持している。しかし、Nps1pは核全体に存在することから、さらに広い機能を持つ事が予測され、現在、BIM1以外の多コピーサプレッサー遺伝子の機能解析を急いでいる。
|